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嫌悪感がキーワード
アッという間にひと月が経ってしまった。今日は7月19日。6月19日がワールドカップの日本VSオランダ戦だったので、あれから丁度一ケ月が経過した。締め切り前のドタバタのなか、このコラムを記しているメランコリーな自身の胸のうちを、その時吐露した。今月も、従ってメランコリーな一日がやって来た。あと数時間のうちに、3000ワード弱の原稿をフィニッシュさせなければならないのである。仕事のため、自宅を出て鎌倉駅へ向かう。ほんの数日前、関東地方の梅雨が明けたのと『海の日』が重なったためか、すれ違うのはビーチボールやビーチマットを持った海水浴客ばかりだ。サンサンと降り注ぐ太陽の下、楽しく笑いながら友人たちとビーチへ向かう若者と、鬱念を抱え独りで会社へ向かう中年男が対照的で、自虐気味ではあるが少し可笑しかった。
歩き出して3〜4分すると「オノザトさ〜ん」と声を掛けられた。ハンチングを被る大柄でラギッドな風体の男は、日テレの“T部長”こと土屋プロデューサーだった。氏は数年前、東京から『湘南移住』してすっかり鎌倉の住人になっていた。同い年で相知る間柄なので、お互い和やかに目礼して行き違った、その時「バイク王、面白いですね」とコメントしてくれた。F&Eの読者でもある土屋氏が、先月号のバイク王とのタイアップ企画を見て感想を伝えてくれたのだ。いまでも現役バリバリ、テレビ局の大物プロデューサーからの気遣いに恐縮しつつも、そこに反応したか?と些か恐れ入った。スタンスは異なるものの、同じ年のプロフェッショナルから掛けられたひと言で一気に仕事モードのスイッチが入り、さっきまでのメランコリーな気分などどこかへ吹き飛んでしまった。
東京へ向かう横須賀線は祭日からか、お昼時からか、空席が目立った。座席に腰掛けた私は、もう一度“バイク王”について考え始めていた。先月号、土屋氏は、特集本編より“バイク王”の方が面白かったのだろう。明らかにそういうリアクションに見て取れた。オールドデザインの街乗り自転車、ガレージライフ、機械式腕時計、ユル武装ファッション、レンジファインダーカメラ、ひとくせあるステーショナリー、カウボーイスタイル、旅に出るモーターサイクル、メインテナンス等々。先月号はかなりパワーあるコンテンツを一括りにして、『アナログ』なアイテムが有する独特の世界観を表現した。各々に奥行きがあり楽しみ方があるので、ファンやマニアも多数存在した。ファッションと同様に、F&Eが相互コミュニケーションを取り易い対象でもあった。意図的なマンネリズムもF&Eの戦略と仮定するなら、この特集に死角はなかった。クライアントも、F&Eの実績とリアルタイムのパワーを理解していた。が、そこにクリエイティブの革新は有り得ない。古くはマガジンハウスが、近年ではワールドフォトプレスが、このジャンルをカヴァーしていた。現在、たまたまこのマーケットをF&Eがリードしているに過ぎないのだ。もし私がいま新進のクリエイターだったら、この手の企画を「死んだ子の齢を数えているようなもの」と揶揄するに違いなかった。事実、先月号の半分以上は、そう言われても仕方がない内容だった。革新的な面白さとは、初めてもしくは新しく見るものであり、いま一番勢いがなければならない。そこには嫌悪感が必ず付き纏う。経験や習慣のないものに対し、人は反射的に拒否反応を示すからだ。その嫌悪感こそ、革新の証なのである。日テレの土屋氏はそのツボを知悉している。テレビの革新的ヒット番組からは、必ずこの嫌悪感が発せられるからだ。すれ違いざま土屋氏が囁いた「バイク王、面白いですね」には、恐らくこんな意味が含まれていたのである。
気が付くと、電車は横浜駅を通過していた。すると思考がコマ送りになり、今度は先月号のバイク王が面白かった理由を考え始めていた。それは幾つかの要因が挙げられた。まず頭に浮かんだのは、あの単純明快なTVコマーシャルのクリエイティブだ。現在のバイク王は、すべてそこが基準になっている。それなのに、である。(1)先月号のF&Eでは、加藤社長が大真面目にビジネスのプラットホームを語っているのが、何ともアンバランスで面白い。(2)高価なTVコマーシャル(スポット)を大量に打っても、ビジネスは成立し、成長を続けているという事実を知ることができた。(3)ラギッドでスタイリッシュなイメージのF&Eと、イケイケなイメージのバイク王との意外な組み合わせが新鮮。(4)バイク王をも飲み込もうとする、ビジネスチャンスに貪欲なF&Eが乱暴でいい。(5)いま最も勢いがある企業、しかしNHK『トップランナー』には出ないであろう加藤社長のインタビューが興味深い。(6)短いタームでのジャスダックから東証2部への上場という、バイク王及び加藤社長のサクセスストーリーがエキサイティング。大概、こんなところだろうか。
バイク王が他と一線を画するのは、マーケットがあるところに進出したのではなく、自ら先頭に立って新しいマーケットを作り上げているところだ。そのための戦略は、ある意味突出していて異端にも見える。その異端とは、前述した嫌悪感と同義である。ゆえにバイク王の存在は革新であり、勢いがあるのだ。テレビマンの土屋氏もエディターの私も、バイク王の見事な爆走ぶりに拍手喝采なのである。その力ずくの方法論をテレビ番組や新しいクリエイティブに転化させて、まだ見ぬヒットコンテンツを作りたいのが本音なのだ。
乗っている電車が新幹線と並走している。ここまで来ると会社までは、あと20分足らずで着く。N700系の車体を眺めながら「近い将来、これがリニアモーターカーになって、名古屋までをたった40分で結ぶんだな」などと想像していた。それが実現した時、窓からの景色や旅の風情は完全に失われてしまう。そこには、だからこそクリエイティブの大きな可能性が潜んでいるのだ。それを埋めることが、我々アナログ系クリエイターの生きる道なのだと、突然気付かされた。
今月の特集はコンセプトショップ。この業態もマーケットのあるところに進出するのでなく、自らマーケットを作ることが成功の条件となる。私もこの特集で未開の地に足を踏み入れ、嫌悪感を併せ持つ一冊を作ることができるのだろうか?何だか、再びメランコリーな気分になって来るのであった…。
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